2017年下半期の芥川賞が石井遊佳「百年泥」、若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」の二作品に決定しました。
何かにつけ出版不況・活字離れが囁かれる現在においても、こうして未だにニュースとして取り上げられるのですから大したものです。
書店に山積みとなった芥川賞受賞作品をつい手に取ってしまったなんてことも多いのではないでしょうか。
ところで、芥川賞受賞作品はどれほど世に出回っているのでしょう?
上のサイトを参照してみると、今回の受賞作である「百年泥」は4万部、「おらおらでひとりいぐも」は12万部のようです。
併記されていた初版の数字が物語るように、1万部も出ればヒット作と呼ばれるこの業界においてこれらの発行部数は破格と言えるでしょう。(もちろん発行部数=実売部数ではありませんが)
それではこれらの作品の初出となった文芸誌はどれくらいの発行部数なのでしょうか。
日本雑誌協会2017年7月~9月の調べでは次のようになっています。
いわゆる五大文芸誌のうち、月刊で発行される4つはそれぞれ
『群像』:6,000部
『すばる』:5,500部
『新潮』:8,933部
『文學界』:10,667部
とあります。もちろん、時期によって増減がありますが、近年は極端に増えることもなく減少傾向にあります。
多いのか少ないのかというと、おそらくかなり少ないのだと思います。
同じく日本雑誌協会のデータによると同時期の月刊誌としては、『中央公論』が26,000部、『文藝春秋』ともなると438,000部になります。
ざっと見たなかで一番近いものが声優にクローズアップした雑誌である『声優アニメディア』で12,833部。
それぞれ性質や購読者層が大きく異なるため単純な比較は難しいかもしれませんが、数字の上では文芸誌はかなりニッチな雑誌と言わざるを得ません。(増刷もかなり稀で、又吉直樹の「火花」が掲載された『文學界』が創刊以来の増刷となったことがニュースにもなりました。)
2017年現在、全国の書店数は営業所や外商のみの書店も含めて12,526店といわれています。
店舗での実売を行わない書店を除いても、文芸誌がすべての書店にいきわたるのは難しそうです。
さらに全国の公共図書館の数はおよそ3,280館、大学図書館も含めると4,698館ほどになります。
当然、これらの図書館のうちいくつかが文芸誌を定期的に購入しているでしょうから、実際に店舗で流通する部数は公表されている発行部数よりさらに少ないことが予想されます。
実店舗で出回らない=読まれないということでは必ずしもありませんが、これはどうなのでしょうか。
もし、書店で流通している文芸誌がほとんど売れなければ全体の発行部数が減るでしょう。
それでも図書館分は確保されるでしょうから、結果的に書店だけから文芸誌がなくなっていくことになります。
こうなると文芸誌はもはや買って読むものというよりは図書館などで読むものとなり、学術書のような専門書的立ち位置になりそうです。
今よりもさらにニッチな、およそ手軽とは呼べないものになるかもしれません。
素人の当て推量ではありますが、すこし不安です。
それぞれに歴史が深く、過去から現在にいたるまで文学を牽引してきている文芸誌。
それはもはや少数の読者の反応をはかり、単行本の刷数を概定するための試金石となってしまったのでしょうか。
作家の創作の場であり、なにより新たな作家の誕生の場ともなるはずのこの雑誌はいまどれほど読まれているのでしょう。気になります。
(ちなみに五大文芸誌がそれぞれ設ける公募新人賞の応募は1000作から2000作の間といわれています。これもやはり読者数と直接には繋がりませんが)
(ザック石橋)